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腸内フローラと痩身

腸内フローラを改善する事によって痩せる」という事が話題になっている。

 

腸 腸内フローラー

 

「本当だろうか?」といつも思う。理由は簡単で、人それぞれの顔が違うように、腸内細菌叢も人それぞれであり、食物や病気によって多少、変化する事はあっても大きく変わる事がないというのが今までの定説だからである。

例えば、北ヨーロッパの寒冷地の人々と、東南アジアの人々の食物は全く違うし、食べ物も、気候も、習慣も違えば、腸内細菌叢も違うはずである。

筋肉質

昔、パプア・ニューギニアの原住民がタロイモしか食べないのに、筋骨隆々としているのは他の人が持っていない特別の腸内細菌を持っており、その細菌が澱粉をアミノ酸に代謝しているのではないかという研究をしていたグループがあった。

 

 

このように腸内フローラは地域や人種によって異なり、大きく変化されないというのが定説であったが、この定説を覆すような研究が発表された。

 

 

図は日経新聞Web2015年7月3日よりWeb上に発表されたもので、大腸内視鏡による移植)

図は日経新聞Web2015年7月3日よりWeb上に発表されたもので、大腸内視鏡による移植)

 

2013年オランダの研究チームが他人の便微生物を移植する事によって、偽膜性腸炎という病気が治るという研究発表をおこなった。
抗生物質を長期に服用するとCDといわれる細菌だけが腸内で増殖して偽膜性腸炎を引き起こす。これはCDに有効な抗生物質を使用して治療をおこなうのであるが長期化する難治性のものもある。

研究グループは難治性の偽膜性腸炎にCDに有効な抗生物質を投与するのと同時に、健康な人の糞便を水に溶かし、残渣を濾し採った液を口からチューブを入れて小腸に注入するという方法で多くの改善をみたという。

この研究がきっかけとなって難治性の病気である潰瘍性大腸炎の治療にも、この方法が応用されてきている。

 

 

この研究のキモはヨーグルトなどの食品ではなく、なるべく近しい人の便微生物を投与した点である。また腸炎の場合、多くは下痢により腸内フローラは大幅に数を減らしているので他人のフローラが定着し易いという事もあるのではないかと推測される。

このような研究から腸内フローラの役割が見直され、腸内フローラを改善する事により、病気治療をはじめ、痩身が可能になるのではないかという事が注目されている。

しかし常識的に考えて、食物によって腸内フローラが改善して痩せる事は考えにくい。ヨーグルトを大量に食べれば痩せる訳でもなく、食物で腸内フローラが改善しないからこそ、オランダの研究チームは便微生物移植療法を考案したのだろう。

ヨーグルト

 

将来、研究が進めば痩せた人の便微生物を移植する事によって痩身が可能になるかも知れないが、今は人それぞれの腸内フローラを定常的に変化させるのは難しいのではないかと思う。

 

しかし腸内フローラの重要性を否定する考えは毛頭ない。福岡伸一博士風にいうと、人の腸管は口から肛門までヒトの体の中を貫いており竹輪の穴にも例えられる。

ちくわ 竹輪 チクワ
竹輪の穴の下方には1g中10の12~13乗個の細菌がおり、グツグツと発酵(腐敗)している。

竹輪の中の皮は生体膜であり、腸内フローラと直接接しており、細菌の代謝物や刺激を絶えず受けている。つまり大腸はヒトの最大の免疫刺激装置であるともいえる。

 

実際、筆者らはラットに色々な物質を投与して、ラット大腸の腸管膜リンパ節や脾臓の免疫細胞の活性を計測していた事があり、物質により免疫細胞の働きが大きく変化する事を確認して、後輩の博士論文に仕上げた事がある。

 

顕微鏡 研究

また大学院生の頃、細菌学教室に良く出入りしていたのだが、そこに国内留学していた薬剤メーカーの研究者がおり、彼がいうには、動物実験で細菌の外膜を投与する事により免疫細胞の活性が上がる事が確認できたが、免疫刺激のメカニズム解明が難しいので商品化を目指す事が出来なかったという。

消化管の研究はかなり進んできたが、腸内フローラの研究は余り進んでいない。腸内フローラといっても、ある程度の菌群が分かっているだけで詳細や全体作用は不明のままである。

今後、更に研究が進むことを期待したいが、「食物で腸内フローラ改善して痩せましょう」は今の所、難しいのではないだろうか。

 

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